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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)4528号 判決 1993年2月22日

原告

金憲年

ほか一名

被告

和田日出人

主文

一  被告は、原告らそれぞれに対して金三七六万八六七二円及びこれに対する平成元年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らそれぞれに対し金五〇〇万円及びこれに対する平成元年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者の遺族が、加害車の運転者に対し自賠法三条に基づき損害賠償を求めた事件である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

左記の交通事故が発生した。

(一) 日時 平成元年一月三一日午後〇時五分頃

(二) 場所 大阪市東淀川区下新庄五丁目四番四号先路上

(三) 加害車 普通貨物自動車

右運転者 被告

(四) 被害者 亡畑亮平(昭和六一年一一月一九日生まれ、本件事故当時二歳)

(五) 態様 被告は、加害車を運転し、本件道路を北から南に向かい進行中、本件道路を横断しようとしていた被害者に自車を衝突させ、そのため、被害者を同年二月二二日死亡させた。

2  責任関係

被告は自賠法三条に基づく責任を負う。

3  相続関係

原告らは、被害者の両親であり、他に相続人はいない。

二  争点

1  過失相殺

(一) 被告

被害者は、本件事故当時二歳で、原告らは、親として同人が単独で往来に飛出さないように監護すべき義務があつた。ところが、原告が駐車車両の背後から直近一メートルで飛出したため、被告は、事故現場を徐行しながら進行していたが衝突を回避できなかつたものである。したがつて、本件事故発生は全く原告側の過失に基づくものであり、相当の過失相殺がなされるべきである。

(二) 原告ら

原告らに親としての監護義務があること、本件事故発生について原告らにも一定の落度があることは認める。しかし、本件事故現場は、スクールゾーン内にあり、道路に面して文化住宅が存在し、ふだんでも子供がよく遊んでおり、被告も、このことをよく知つており、特に入社以来上司からこの付近の状況について注意されていたことなどからすると、前方の安全確認が十分にできないときは子供の飛出しがあつても衝突を回避できるよう特に徐行と安全確認につとめるべき義務を負っていたと考えられるから、原告らの過失は過大に評価されるべきではない。

2  その他損害額

第三争点に対する判断

一  本件事故状況及び過失相殺などについて

1  事実関係

(一) 前記争いのない事実に証拠(甲1、甲2、乙2、検乙1ないし検乙4、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 本件事故現場は、市街地を南北に通じる道路上である。本件事故現場付近の道路は、平坦にアスフアルト舗装された幅員六メートルの道路で、その中央にはセンターラインがあり、本件事故当時、路面は乾燥していた。

本件事故現場の南西側には下新庄公園があり、本件道路はスクールゾーンになつている。

本件事故当時、本件道路北行車線西端寄りには二台の自動車が縦列駐車していた。

(2) 被害者は、前記駐車車両のすぐ南側から、本件道路を西方から東方へ横断しようとしたさなか本件事故にあつた。

(3) 被告は、北側から加害車を運転して本件事故現場付近に至つた。そして、本件事故現場手前四・二メートル付近で前記駐車車両の背後から道路中央に出てきた被害者を認め、危険を感じて、急ブレーキをかけ、ハンドルを左に切つたが、本件衝突地点で自車右前部を被害者に衝突させ、自車は約二メートル進んだ地点に停止し、被害者は衝突地点から南側に一・七メートル離れた地点に転倒した(なお、実況見分の際、加害車の右前部には「確定される鮮明な痕跡、払拭痕は発見されず、唯一前部バンパー右角に払拭痕らしきホコリが取れたような部位が認められたか、不鮮明で断定できない。」とされたものの」、前記被害者の進路及び衝突後の転倒位置からすれば、被害者は加害車の前部右側に衝突したものと推認されるところ、前記実況見分の結果はこの認定の妨げにはならないし、他にこの認定を妨げる証拠はない。)。

(4) なお、被告は、本件事故現場付近が住宅地で子供が多く、進行方向右側には公園があり、スクールゾーンになつていることを認識していた。

(二) そして、被告は、危険に気が付いた時の加害車の速度を、時速二〇キロメートル程度であつたと供述しているところ、この供述は、前記認定の制動距離関係や一般に考えられている空走時間を〇・八秒、摩擦係数を〇・七とした場合の時速二〇キロメートルで進行している自動車の制動距離六・六一メートル(空走距離四・四四メートル、実制動距離二・二一メートルの合計)とも整合性があり、信用できる。

2  判断

以上に認定の事実によれば、監護義務者である原告らは、被害者が自動車などと衝突することのないよう十分な監護をなすべきであつたのに、被害者(当時二歳)は、駐車車両の陰から、加害車の直前を横断しようとしたことになるから、本件事故発生について、原告らには一定の落度があつたといわざるをえない。

しかしながら、被告は、進路左前方の安全確認が十分行えない状態で、時速二〇キロメートル程度の速度のまま本件道路を進行しようとして本件事故を発生させたもので、そのような被告の過失は大きいといわなければならない。

そして、右認定事実から認められる双方の過失の内容、程度、衝突場所の道路状況等を考慮すると、原告らの過失は二割と認めるのが相当である。

二  損害額について

1  被害者の損害(逸失利益・請求額一八五二万六〇〇〇円)について 一八五二万五九三二円

被害者は、本件事故当時二歳の男子であつたことは当事者間に争いがない。したがつて、被害者は、本件事故に遭遇しなければ、一八歳から六七歳まで四九年間は就労可能であり、その間毎年、少なくとも、平成二年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・一八歳から一九歳までによる平均年収額二一七万六五〇〇円程度の財産上の収益をあげることが可能であつたものと推認することができる。

そこで、右認定金額を算定の基礎とし、また、その間の生活費割合に関し、被害者の年令、家族関係からして相当と認められる五割を控除し、ホフマン式計算法により中間利息を控除して同人の逸失利益の現価を算出すると、次のとおり一八五二万五九三二円となる。

(計算式)

2176500×(1-0.5)×(28.5599-11.5363)=18525932

2  権利の承継

前記争いのない相続関係によれば、被害者の死亡にともない、原告らは右損害賠償請求権を、各二分の一の割合により相続したことになるから、その金額は各原告につき、九二六万二九六六円となる。

3  原告ら固有の損害

(一) 葬儀費(請求額各六〇万円) 各四〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは被害者の葬儀を行つたものと認められるところ、被害者の年齢、家族関係などからして、右金額の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

(二) 慰謝料(請求額各一〇〇〇万円) 各九〇〇万円

被害者の年齢、家族関係その他の事情を考えあわせれば、本件事故によつて我が子の生命を奪われるに至つた原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては、右金額が相当であると認められる。

(右2及び3の合計は、各原告につき一八六六万二九六六円となる。)

4  過失相殺

前記認定の原告らの過失割合二割を自己又は被害者側の過失として斟酌すると、その残額は、各原告につき一四九三万〇三七二円となる。

5  損益相殺(主張額二三二二万三四〇〇円) 各一一四六万一七〇〇円

被告又は被告加入の自賠責保険会社が原告らに対し、合計二二六二万三四〇〇円を支払い、これが損益相殺の対象となることは、当事者間に争いがない。

また、原告らが被告又は被告の雇主が平成元年二月上旬頃見舞金として合計三〇万円を、また、同年二月二二日香典として合計三〇万円を支払つた事実については、当事者間に争いがない。そのうち、見舞金については、関係者の被害感情をいささかでも軽減するために支払われたものとするにはやや高額であり、損害填補の趣旨を含まないとすることは困難であり、損益相殺の対象とするべきであるが、香典については、その金額などからしても、社会儀礼上、関係者の被害感情をいささかでも軽減するために支払われたものと解され、前記損害を填補する性質を有するとはいいがたく、原告らの前記損害から控除することはできない。

そして、損益相殺の対象となる右金額は、原告らの各損害額の割合に応じ、各二分の一の割合で、原告らの前記損害から損益相殺されることになる。この損益相殺後の残額は、各原告につき、三四六万八六七二円となる。

6  弁護士費用(請求額合計一〇〇万円) 各三〇万円

本件訴訟の結論及び審理経過によれば、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、右のとおりと認めるのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、各三七六万八六七二円及びこれに対する本件不法行為の後である平成元年二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は理由がないことになる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井英隆)

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